2025年の宇治抹茶初市で、1キロあたり8,235円という過去最高価格が記録されました。これは前年の1.7倍という驚異的な価格であり、これまでの最高値である2016年の4,862円を大きく上回ります。
この価格高騰は、宇治抹茶だけに留まらないかもしれません。他県のてん茶初市や初競り価格も高騰する可能性があり、抹茶市場全体が活況を呈する、激動の年を迎えるかもしれません。では、なぜ今年の抹茶価格はここまで高騰したのでしょうか?そして、他県産の抹茶価格はどうなるのでしょうか?
この記事では現状揃っている情報を踏まえて、今年の抹茶価格動向を予測し、市場で起こる様々な事象について検討したいと思います。
第1章:宇治抹茶を取り巻く状況
皆さんも既にご存知の通り、日本のお茶は国内よりも海外での需要の方が多く、近年は米国・欧州向けに抹茶を中心に輸出が伸びてます。
しかしながら脆弱な国内生産体制をどうするか、海外資本による「高級茶葉」の現地での調達が可能となった場合のリスクを考えると、うかうかしていられない状態なのは間違いありません。

茶葉農家や各府県も、このビジネスチャンスに抹茶原料となる「てん茶」の栽培に力を入れてます。せん茶の生産量は減っていく中で、「てん茶」は平成20年(2008年)からの15年間で生産量が2.9倍となる4,176トンとなっております。



都道府県別のてん茶生産量ランキングを以下の通り示します。抹茶の生産量に限定すると、やはり宇治抹茶で知名度を誇る京都府が上位に顔を出しますね。 しかし、てん茶の生産量は、お茶全体の生産量からすると鹿児島県で6.1%、静岡県で1.9%ですから少ないですね。



お茶の木が生育するには時間が掛かりますし、何と言っても茶葉農家がこの15年間で半減して作付け面積も25%減ってますから、お茶の木の樹齢が30年を超えているのは心配なデータです。新しいてん茶用の木を植える作業が遅々として進んでいないように見えるのは仕方がないとは言え、勿体ないですね。



🟢 鹿児島県:生産量全国1位
- 生産量:2023年(令和5年)産の「てん茶」生産量は1,585トンで、全国シェアの38%を占め、全国第1位となっています。
- 特徴:平坦地が多く、機械化が進んでいるため、効率的な生産が可能です。また、多様な品種の栽培や有機栽培の推進により、品質の高い碾茶の生産が行われています。
🟢 京都府:伝統と革新の融合
- 生産量:2023年(令和5年)産の「てん茶」生産量は970トンで、全国シェアの23%を占め、全国第2位となっています。
- 新たな取り組み:2025年5月1日、共栄製茶株式会社が京都府南山城村に年間100トン以上の「てん茶」を製造する新工場を開設しました。この工場は有機JAS認証を取得し、海外需要にも対応しています。また、茶農家から加工前の茶葉を購入し、一次加工を行うことで、茶農家の負担軽減と持続可能な茶業の実現を目指しています。これにより、てん茶への生産シフトが加速することが考えられますね。
🟢 静岡県:有機栽培への転換
- 生産量:2023年(令和5年)産の「てん茶」生産量は505トンで、全国シェアの12%を占め、全国第3位となっています。
- 課題と対応:近年、荒茶生産量で鹿児島県に首位を譲るなど、生産量の減少が課題となっています。これに対応するため、静岡県は2025年度予算にブランドの再構築や輸出向け品種への転換を支援する補助金を計上し、単価の高い有機茶などの生産力を高め、海外販路拡大に取り組んでいます。
主要産地以外でも「てん茶」への生産シフトは強まっており、2025年5月5日付の中日新聞によると滋賀県の主産地である甲賀市では土山地域で加工設備の増設や信楽地域で煎茶から「てん茶」への転換といった動きがあることを伝えてます。
第2章:2025年 宇治 抹茶価格の動向
宇治抹茶の初市で記録された8,235円/㎏という価格は、前年の1.7倍という驚異的なものであり、前述した通り2016年に記録した過去最高値 4,862円を大きく更新しました。
この急騰の理由は以下の通りです。
1️⃣ 天候の影響:春先の冷涼な天候で茶の生育が進まず、出品数が例年より少なかったことが高値に繋がった。(出典:朝日新聞 2025年5月10日付)
2️⃣ 需要と供給のバランス:特に海外の需要を見込んだ引き合いが強く、供給不足が価格を押し上げた。(出典:朝日新聞 2025年5月10日付)
今回に限らず初市での価格は「ご祝儀相場」としての側面も否定できません。例年、初市では取引価格が高騰しやすく、これは一種の象徴的な価格として市場に認識されます。ただし、二番茶・三番茶では価格が落ち着く傾向がありますので、今後の市場動向に注視して改めてご案内させて頂きますね。
第3章:2025年 抹茶価格の予測
抹茶の原材料となる「てん茶」の各主力生産地の初市価格は今後順次発表されると思いますが、現時点で分かっている玉露などの初セリの情報などを見る限り、昨年に引き続き高値で推移することが予測されます。
京都府で「てん茶」の初市に先んじて2025年4月23日に開かれた煎茶を中心とした宇治茶の初市では、平均単価 1万7098円/kgとで、昨年の1万4271円/㎏を上回っており抹茶の取引価格と相関していることが分かります。
また静岡県の2025年の初セリで静岡県両河内地区で生産された”浅蒸し煎茶”の「高嶺の香」に88万円/㎏の値段がつきニュースになりました。2024年もこの銘柄には111万1111円の値段がついているので、高級なお茶については高止まり傾向が続いているとみられ、生産者の立場としてはご祝儀相場とはいえ、確かな品質のモノが高く評価されることは素晴らしいことだと思います。
日本一早く2025年4月9日に開催された、全国一位のあら茶の生産地 鹿児島県での「令和7年産新茶初取引会」では1キロあたりの平均単価は4,137円で、前年を268円上回る結果となりました
以上のように2025年は宇治抹茶だけでなく、全国の主要産地でもせん茶の価格が高騰又は高値を維持しています。
まとめ:日本のお茶業界の構造的課題と未来への警鐘
以上のデータは、日本全国で茶の価格が高騰していることを示しています。特に高品質茶への需要が強く、初市価格が前年比を大きく上回る結果となりました。
5月上旬に収穫される「てん茶」は熟成期間を経て、毎年11月頃に出荷が始まります。しかし、世界的な抹茶人気の影響で、既に宇治の茶問屋の在庫は「空っぽ」の状態であり、今後も高級抹茶を中心に品薄・高値の傾向が続くと予測されます。
1. 日本の抹茶産業は「高級品」化の危機
抹茶は世界的に人気を博していますが、その背景には「日本産抹茶」というブランド力があります。しかし、この需要増加が日本国内の生産農家を救っているわけではありません。むしろ逆に、供給体制の弱体化が問題となっています。
- 茶葉農家の軒数はここ15年で半減し、特に小規模農家が離農を余儀なくされています。
- 茶農家の年収は90万円程度とされ、経済的に厳しい状況です。
- 技術承継が進まず、熟練の茶匠が引退するとともに、品質の維持が難しくなります。
2. 価格上昇が農家の利益に直結しない現実
茶の価格は上昇しても、生産者の収入は増えていません。令和のコメ騒動でも明らかになったように、末端の消費者が支払う価格と生産者の収入には大きな乖離があります。
- 消費者が支払う価格は上がり続けているが、農家の収入は減少。
- 卸業者や流通業者の利益が確保される一方、生産者は低収入に苦しんでいます。
3. 世界的需要と外国資本の影響
世界的な抹茶ブームは一時的なものではなく、スターバックスや海外ブランドが抹茶を積極的に採用しています。しかし、これが日本の抹茶産業を救うとは限りません。
- スターバックスは米国・中国での売上不振を背景に、自社での抹茶生産も視野に入れて利益率改善を検討していると思われます。
- 日本国内での抹茶供給が不安定になれば、海外資本が直接生産に乗り出す可能性も否定できません。
4. 日本のお茶産業を守るためには
高い技術を持つ茶農家、茶舗の茶匠、工場の技術者など、日本の抹茶産業を支える人々が現役のうちに「お茶は稼げる産業」とする必要があります。
- 消費者は国産抹茶を選び、地域の茶農家を支援することが重要です。
- 行政は生産者への直接支援や、技術承継プログラムを強化するべきです。
- 茶農家や茶舗は更なる高付加価値商品の開発や転換、海外市場開拓に取り組む必要があります。




最後までご覧頂き有難うございました
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