2023年、日本の畜産界において大きな節目となる変化がありました。
これまで63年もの間、肉用牛の出荷額で全国1位の座を守ってきた鹿児島県を、北海道が初めて抜いたという出来事です。
一昔前までは乳牛は多いけれど肉牛のイメージは強くなかった北海道のこの快挙の背景には、独自の生産体制や畜産戦略、そして農業従事者たちの不断の努力がありました。

サクランボもトマトも肉牛も美味しい北海道!
最後までどうぞご覧くださいね。
歴史的な首位交代
農林水産省が公表した2023年の生産農業所得統計によると、北海道の肉用牛の産出額は1,224億円(前年比21億円増)となり、鹿児島県の1,208億円(前年比20億円減)をわずかに上回りました。
1960年以降、肉用牛生産額で常にトップを走り続けてきた鹿児島県を北海道が初めて上回ったのです。
この逆転劇は単に生産量の増減にとどまらず、北海道が長年にわたり取り組んできた酪農との連携による交雑種の安定生産や、広大な土地を活かした効率的な飼育体制の成果と言えるかと思います。
北海道は肉用牛の飼養頭数においても全国最多ですが、その多くを占めるのは黒毛和種に乳牛(ホルスタイン)を交配した「交雑種(F1)」と呼ばれる肉用牛です。
実はこれが道内の肉牛生産の中核を担っている秘密なんです。
出典:ホクレン農業協同組合連合会「ホクレン 肉の国」
https://www.hokuren.or.jp/nikunokuni/hokkaido/motto/beef.html
酪農との連携が生む強み
北海道はもともと、酪農が盛んな地域であるため、乳牛の飼養頭数は全国の約5割を占めてます。
この酪農資源を活かした肉牛生産が拡大してきた経緯があります。
乳用牛に和牛の精子を人工授精することで生まれる交雑種は、赤身と脂身のバランスがよく、近年その品質の高さに注目が集まっています。
この交雑種を安定的に生産・出荷できる体制こそが、北海道の肉用牛産出額を大きく押し上げる要因なのです。
これって実は大谷翔平選手の二刀流を上回る「三刀流」を北海道の肉牛農家がやっているということなんですよ。
🐄 具体的に言うと…
通常の分業モデル(例:九州や関西地方)
- 酪農家 → 牛乳を絞る乳牛だけを飼育
- 繁殖農家 → 和牛の子牛を生ませて売る
- 肥育農家 → 買った子牛を大きく育てて出荷
このように役割が分かれているのが一般的です。
北海道の多くの農家は…
- 酪農をしながら和牛の精子で交雑種(F1)を生産し
- 自分たちで肥育まで行い出荷する
つまり、1戸で3役(酪農+繁殖+肥育)を担っているケースが少なくないのです。
💡 これが意味すること
ではなぜそんな「大変なこと」をやるかと言うとメリットがあるからです。
それは…
- 子牛の仕入れコストに左右されにくい
- 生乳価格の変動リスクを分散できる
- 肉牛出荷による新たな収益源が得られる
など、経営の安定性が高まるという利点もあります。
だからこそ北海道では、このスタイルが発展してきたんですね。
多様な地域ブランドの確立
北海道では現在、約60種類以上のブランド牛が存在しており、地域の特色や飼料、育成方法に応じた個性ある牛肉が生み出されてます。
代表的な例としては、白老牛(しらおいぎゅう)、十勝和牛、知床牛、そしてJA鹿追町が展開する「とかち鹿追牛極」などなど、少々乱立気味のような雰囲気さえあります。
しかし例えば九州で考えると鹿児島、佐賀、宮崎などと各県がブランド化している訳ですから、広大な北海道で生育環境を揃えるというならブランドの細分化も当然のことかも知れないですね。
これらのブランドは生産者やJAが一体となって育て上げた成果であり、単なる出荷量の拡大だけでなく、質の向上と差別化という競争が働いたことで好循環を導いたものと思います。
全国和牛能力共進会、2027年に北海道で開催
さらに2027年には、「和牛のオリンピック」とも称される全国和牛能力共進会(全共)が初めて北海道で開催される予定です。
この大会は和牛の資質や飼育技術を競う国内最高峰の品評会であり、道内の肉牛ブランドにとっては全国規模のアピールチャンスですね。
この開催を機に北海道産牛肉の存在感や知名度がさらに高まることが期待されますね。
ところで肉牛産出額では日本一となった北海道ですが、もちろん課題もあります。
近年の飼料価格の高騰や労働力不足に加え、消費地である本州との距離の遠さに起因する割高な輸送コストが依然として課題として残ります。
また但馬牛や松阪牛といった老舗ブランド和牛と比べて、北海道産牛肉の認知度や評価は地域によってばらつきがあるのも事実です。
道外の消費者に向けて、いかに「美味しさ」と「信頼性」を届けるかが、次なる成長のカギとなると思います。
まとめ
かつて“酪農王国”と呼ばれた北海道が、いまや“肉牛王国”としても君臨しています。
関係者の方々におかれましては、感無量といったところでしょうね。
何と言っても単なる量産では、消費者に買ってもらえない訳です。
出荷・販売で1位になったということは地元の自然と生産者の想いを反映した丁寧な畜産の成果として「リーズナブルな価格」で「良質な製品」が評価されたということです。
「肉牛でも日本一」──この事実を誇りに、北海道の畜産業はこれからも、質と量の両面から日本の食卓を支えてもらえるでしょう。
今後は他の高級ブランド牛とも互角に張り合える、もう一段上の高みを目指して頂けることだと思います。




酪農と肉牛生産の合わせ技、
舞台裏では語り尽くせないご苦労があったはずです。
美味しい牛乳と牛肉、どうも有難うございます!
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