やなせたかしさん(『アンパンマン誕生』)、平川唯一さん(『カムカムエヴリバディ』)──朝ドラの実在モデルとなった人物たちの生き方に心を動かされてきました。
だからこそ、『あぐり』の原案になった吉行あぐりさんの自伝にも、大きな期待を抱いてページを開きました。
しかし、読み進めるうちに私は戸惑い、次第にページをめくる手が重くなっていったのです。
これは、そんな“共感できなかった理由”を率直に記録した読書レビューです。
※あくまでこれは私個人の視点によるレビューです。
ぜひ、ご自身の目でお確かめください。
「生家の没落で15歳の嫁入り」──衝撃的なタイトル、しかし中身は…
物語冒頭の見出し「生家の没落で15歳の嫁入り」は、読む側の期待を高めます。しかし、当時流行した「スペイン風邪」により、実の姉2人に続き、弁護士であり県議会議員でもあった一家の大黒柱である父が亡くなりました。
それにもかかわらず、どれほど家族が亡くなり、生活が激変しても、物語の語り口はまるで他人事のように淡々としています。悲しみの描写は一切なく、「何も変わらなかった」かのように、母は今まで通りの生活を続け、それを見たあぐりも「私も何も生活は変わらないと思っていた」と語ります。この時点で、読者である私は、この人物への共感を一気に失ってしまいました。
また、家計が苦しくなった後に突如として舞い込んだ縁談の話。当時、作者は学生でしたが、「学業を続けたい」という理由から資産家の息子と、当時としてもあり得ないほど若い15歳で結婚します。しかし、懐妊と同時にあっさり退学しました。
昭和の時代をたくましく生き、美容師として活躍した女性像を描くには、10代の彼女の生き方はあまりにも周りに流されすぎているように感じられ、惜しまれるばかりです。
感情の起伏が希薄なまま進む物語
この自伝の中で、作者の感情が初めて動いたと感じられたのは、51ページ目です。 結婚後、ふらっと出かけて戻らない夫・エイスケを迎えに行くため、10か月の息子を岡山に残し、東京へ向かう。その際、息子の寝顔を見て涙がこぼれた―そう描かれています。
しかし、その直後に続く一行は、「別れることの辛さは、父や姉たちの死で知りすぎるほど知っています」。 ここまで家族の死に関する感情の変化は一切描かれてこなかったのに、突然この場面で日記的な報告ですか?
この違和感が、読み進めるほどに強くなっていきました。
美容師になるきっかけも「なんとなく」
ドラマであれば、彼女が美容師になるくだりは、大きな転機として描かれるでしょう。 しかし、この自伝では、「ちょっと話を聞きに行ってみようか」という軽い気持ちで、後に師匠となる丸の内美容院の山野先生に会いに行くのですが、ここでも驚くほど動機が希薄です。
そして、何かに深く感動したわけでも、強く憧れたわけでもなく、気がつけばやる気になっていた。 シュートメ(姑)の「やってみたらどうかしら」の一言で、すんなり決定します。
情熱や葛藤、覚悟といった描写がまったく見られません。
読者として心を重ねる余地がなかったのが、非常に惜しく感じられました。
苦労の描写がないまま、夫の死も借金も「通過」する
苦労話が全くないわけありません。 美容師の道も決して平坦ではなかったでしょうし、当時の時代背景を考えれば、女性にとって厳しい環境であったはずです。 しかし、本書にはその苦労の描写はほとんど見当たりません。 読者がその努力に心を寄せる余地がなく、物語に没入しづらく感じてしまいます。
そして、夫・エイスケが亡くなる場面ですら、「借金が残った」の一言のみ。 悲しみも、怒りも、安堵すらも描かれることなく、ただ淡々と“通過”していきます。
感動どころか、読み手の私は「置いてけぼり」になってしまいました。
思春期の娘への説明もなく再婚、「養子縁組は知らない」の一言に愕然
読者として、最大の拒絶感を覚えたのは再婚にまつわるくだりでした。 子どもが3人いる状況で再婚するにあたり、長男には相談したものの、 中学1年生と小学3年生の娘には何も話さなかったという記述。
普通、伝えるものではないでしょうか?
さらに、夫の連れ子との養子縁組についても「したのか知らないままです」と書かれています。
自伝という“読まれることを前提にした文章”で、夫や義理の娘がどれだけ傷つくかを深く考えずに、こうしたことをさらっと書いてしまう無神経さに、読者として違和感を超えた虚無を感じました。
残り100ページほどを残して、ここで私は読むのを止めました。
共感できなかった理由
自伝は“感動させるための物語”でなくてもかまいません。
けれど、そこに誠実な自己開示や心の軌跡がなければ、読者はただ情報を“処理する”だけで終わってしまいます。
私にとって本書は、まさにそのような“感情を共有できない”一冊でした。
それが悪いというわけではありませんが、朝ドラのモデルにもなった方だからと淡い期待を持っていましたが、そのギャップはあまりに大きかったと言わざるを得ません。
それでも読むか迷っている方へ
これは、あくまで一読者としての正直な感想です。
この本に共感される方もいるでしょうし、異なる受け止め方もあると思います。
ただ、私のように“朝ドラの実在モデルに感動してきた読者”がこの本を手に取るなら、
あらかじめ知っておいた方がよい感覚がある──そう感じて、この記事を書きました。
読書はいつでも、他人の人生と自分の感性が交わる場です。
このレビューが、その入口に少しでも役立つなら幸いです。
読後に強くおすすめしたい、心が動いた実在モデル本
以下の2冊は、私が心から読んでよかったと感じた“朝ドラの実在モデル”の本です:
- 『やなせたかし「アンパンマン」誕生までの物語』やなせたかし 著
- 『カムカムエヴリバディの平川唯一(ただいち)』平川洌(きよし)著
いずれも、自分の信念と時代に向き合いながら生きた人たちの“確かな言葉”に満ちた一冊です。

面白いものは面白い
残念なものは残念です




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