- ▶ 130年続いた老舗「茶の一茶」が自己破産へ至った背景
- ▶ 出店戦略の落とし穴──スーパーが最大のライバルに
- ▶ 日本茶業界全体の厳しい現状と消費行動の変化
狭山茶愛好家の皆さんに、残念なお知らせです。
埼玉県狭山市に本社を構え、創業から130年の歴史を持つ老舗狭山茶専門店「茶の一茶」が、事業を停止し、自己破産申請の準備に入ったことが明らかになりました。
関東を中心に9店舗を展開していた同社の閉店は、多くのファンに衝撃を与えています。

報道によると、日本茶販売の「茶の一茶」(狭山市)は7月1日までに事業を停止し、自己破産申請の準備に入ったとのことです。
負債総額は約3億円と見込まれています。
「小林茶業」の屋号で創業し、創業130年を超える老舗として知られていましたが、「競合激化」や「仕入れ価格の高騰」などが影響したようです。
その最たる競合相手が同居先のイオンやベルクであったと思われ、「茶の一茶」の経営は非常に困難な舵取りだったようです。



引用元:茶の一茶 公式ホームページ
愛された「茶の一茶」の魅力
「茶の一茶」は、埼玉県が誇る「狭山茶」の魅力を深く追求してきた専門店でした。
「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」と歌われる狭山茶の特徴である「味」に特にこだわり、無農薬の自家茶園で育てた最高品質のお茶を提供していました。



同社のウェブサイトでは、「狭山製茶品評会 うまい茶コンクール」や「農林水産省総合食料局長賞」など、数々の受賞歴が紹介されており、その品質の高さは折り紙つきでした。
茶葉の芯まで蒸し、鮮やかな緑色の水色と甘み、深いコクを引き出す「狭山火入れ」へのこだわりも、多くのお茶好きを魅了していました。
季節限定のお茶やギフト商品も充実しており、毎月行われていた「お茶詰め放題」などのユニークなイベントも人気を集め、地域に根ざした愛されるお店が閉店なのです。
閉店の背景にある厳しい現実
なぜ、これほどまでに愛され、品質にこだわってきた老舗が閉店という選択をせざるを得なかったのでしょうか。
報道によると「競合激化」と「仕入れ価格の高騰」が原因とされています。
実際、同社のウェブサイトの更新情報には、2025年5月1日付で「原材料費、資材価格の高騰により、新茶販売から内容量が変更」との記載があり、原材料費の上昇が経営を圧迫していた実情がうかがえます。
長引く物価高は、高品質を維持しようとする企業にとって大きな負担となります。
高級茶の売上が芳しくない一方で、価格転嫁が難しい日本茶業界において、仕入れコストの増加は利益を圧迫し、経営を困難にさせたのでしょう。
しかし、「お茶の一茶」にはそれ以上に厳しい現実があるのです。
次の章で詳しくご紹介します。




衝撃!「お茶の一茶」の出店先に自己破産の原因が!
「茶の一茶」は、埼玉県を中心に以下の9店舗を展開していました。
- そよら武蔵狭山店
- イオン狭山店
- 狭山スカイテラス店
- ベルク飯能緑町店
- イオン大井店
- イオン板橋店
- イオン大宮店
- イオン笠間店
- イオン鎌ヶ谷店
これらの店舗の閉店は、地域の人々にとっても寂しい限りだと思います。
しかしながら、この出店先が「茶の一茶」の運命を決定づけたと考えられるのです。



引用元:茶の一茶 公式ホームページ
ここで衝撃のデータをご覧ください。



私たちの日常生活の変化により、お茶、特に高級なリーフティーの消費量が減少しているのは、皆さんも実感があることだと思います。
また、お中元やお歳暮などで、お世話になった方に、高価なお茶を贈ったことがある方も少なくなったと思われます。
実は市場の減少に加えて、私たちのお茶の購入ルートが大きく変化しているのです。
平成11年には緑茶の購入先は専門店も含む「一般小売店」が中心でしたが、令和2年には15.7%へと半減しています。
その一方で通販からの購入が9%から14%と微増であるのに対して、
スーパーからの購入が29%から48.7%へと倍増しているのです。
イオンやベルクなどのスーパーやショッピングモールに出店しているお茶の小売店にとって、
同居している「スーパー」が最大のライバルだという衝撃の事実なのです。
最近はキャッシュレスでの買い物が当たり前になりましたが、スーパーで生鮮食品を購入するついでにお茶を手に入れる方が多いのも、合理的な選択かもしれません。お買い得商品を見つけやすく、特にスーパーでは選択肢の幅が広いという利点があります。
一方で、お茶の専門店へわざわざ足を運ぶのは手間に感じることもあります。その上、店員さんの目の前で、並んでいる高価な商品ではなく手頃な価格の商品を選ぶのは、少し気が引けるという心理的ハードルもあるでしょう。
このような理由から、お茶の専門店が敬遠されるのは、皆さんもきっとご理解頂けると思います。
さらに贈答品について言えば、包装済みの商品を直接自宅まで届けてくれる通販の利便性は際立っています。商品を選んだ後で店員さんに包装をお願いし、それを待つ時間も省けるため、時間効率の面でも大きなメリットがあると言えるでしょう。
ショッピングモール内のお茶専門店は、「お茶の一茶」だけでなく、昨年自己破産した「お茶の玉宗園」のように、競争が激化する中で非常に厳しい経営環境に直面しています。
つまり、どこに手を伸ばしても困難が待ち受ける、まさに「八方ふさがり」の状況に置かれているのです。
まとめ
創業130年を超える歴史と、狭山茶への深いこだわりで多くのファンを魅了してきた「茶の一茶」。
その閉店は、物価高や競争激化といった現代の経済環境の厳しさを改めて私たちに突きつけるものです。
お茶が以前から販売の主力として期待してきた百貨店も、惣菜やスイーツの値上がりから客離れを引き起こし、デパ地下が閑散としていると報じられており、当然、軒を並べるお茶売り場も厳しい状態だと思います。
百貨店も、スーパーやショッピングモールも、そして通販市場も競合だらけで100年の歴史と伝統を誇る会社にとって、かじ取りが大変なことだったと思います。
そんななか、長年にわたり美味しいお茶を提供し続けてくださった「茶の一茶」の皆さんに、心からの感謝と労いを申し上げます。




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