すかいらーくに残された“最後の切り札”とは──資さんうどん?バーミヤン?それとも…

すかいらーくグループの中期経営計画をTV番組で語るグループ代表をイメージしたアイキャッチ。

かつて「ファミレス王国・日本」を築いたのは、まぎれもなくすかいらーくグループでした。
ドリンクバーの先駆けとして外食文化を変革し、全国すべての都道府県への出店を達成。
「ガスト」の1,000店舗体制は、“国民的ファミレス”の象徴とも言える存在でした。

しかし今、ファミリーレストランという業態そのものが、大きな転換点に差し掛かっています。
家族での外食は「ファミレス」から「回転寿司」や「焼肉食べ放題」へ、
単身層の“ちょい食べ”は「コンビニ」や「フードコート」へ──
利用シーンそのものが分散し、ファミレスの役割は徐々に薄れつつあるのです。

その変化に最も苦しんでいるのが、皮肉にもこの業態の先駆者であるすかいらーく。
特に「ガスト」には、今や“何を食べに行けばよいのか分からない”という根本的な問題が横たわっています。

一方で、グループ内にはまだ唯一の希望があります──それが「しゃぶ葉」です。
実際、青森・八戸ではガストからしゃぶ葉への転換により、売上+142%という劇的な成功事例が報告されています。

本記事では、沈みゆくガストの出口戦略として、「しゃぶ葉への業態転換→フランチャイズ譲渡」という一連の流れが、いかに再生の筋道となり得るかを検証します。

これは単なる業態転換ではなく、すかいらーくが抱える構造的問題への“現実的かつ唯一の打ち手”かもしれません。

目次

ガストという“終わったブランド”の実情

ファミリーレストランの代表格として長く親しまれてきたガストですが、近年ではその存在意義が急速に薄れてきています。

たとえば他の外食チェーンと比較すると、その違いは明白です。サイゼリヤには「ミラノ風ドリア」、丸亀製麺には「釜揚げうどん」といった、明確に“これを食べに行く”という看板メニューがあります。これらはブランドの中核として機能し、店舗に足を運ぶ動機となっています。

一方で、ガストにはそのような「目的となる一皿」がありません。かつては「安くて無難な選択肢」として成立していましたが、今では「何を食べに行けばいいのかわからない店」になってしまいました。

さらに、かつてガストの強みだったドリンクバー文化も時代にそぐわなくなりつつあります。若年層のアルコール離れや飲酒運転撲滅の社会的な流れもあり、ロードサイド店舗におけるアルコール提供の魅力は大きく損なわれています。以前のように「気軽に飲める外食」のポジションは、すでに失われつつあります。

家族連れは回転寿司や焼肉チェーンへ、単身客はフードコートやコンビニへと流れています。利用シーンが曖昧になったガストは、消費者の“選択肢”から外れつつあるのが実情です。

ガストは、何を食べるための場所なのか。どんなときに、誰と行くべき店なのか。
その問いに誰も答えられないとしたら、ガストというブランドはすでに「役割を終えた」と言わざるを得ません。

すかいらーくの八戸での成功事例: 「カニバリ解消→売上倍増」

すかいらーくグループの中期経営計画の中に、非常に興味深い一枚のスライドがあります。
それは、青森県八戸市での「ガスト→しゃぶ葉」への業態転換に関する事例です。

この地域ではもともとガストが2店舗並立しており、いわゆる“カニバリゼーション(自社競合)”が起きていました。
それを回避する形で片方のガストをしゃぶ葉に業態転換した結果、
しゃぶ葉の売上は+142%、残ったガストも+22%という、驚くような二重の上昇効果が得られたといいます。

要するに「転換した店舗も、残した店舗も、両方儲かる」という、絵に描いたような成功パターンです。

このような事例が社内資料として明示されているということは、すかいらーくグループがこの八戸の成功を「再現性のあるテンプレート」として認識していることを意味します。

ガスト店舗の業態転換によるカニバリ解消事例(青森・八戸)|すかいらーく中期経営計画資料より

引用元:すかいらーくホールディングス中期事業計画

単に一店舗の業態転換ではなく、「ドミナント過剰地域の再整理」「撤退コスト回避」「既存資産の有効活用」など──経営的に見れば、極めて戦略的な意味合いを持った動きです。

そして、このパターンが通用するなら、全国のガストが“次のしゃぶ葉候補地”になり得るという現実が、すでに見え始めています。

そして“出口戦略”へ──撤退コストとフランチャイズ構想(私案)

すかいらーくグループにとって、ガストの整理は避けて通れない大きな課題です。
もし私が経営者の立場であれば、今後成長の見込めない地域における“撤退戦略”として、以下のような方向性を検討すると思います。

まず、閉店には多大なコストがかかります。
一般的に、1店舗あたりの撤退には約1,000万円が必要とされています。
これは、原状回復工事・看板撤去・設備廃棄に加え、従業員の配置転換や退職手当なども含めた費用です。

そこで私なら、「撤退」ではなく“リフォーム再販”のような形でのフランチャイズ譲渡を模索します。
とくに、先行してガストからしゃぶ葉に業態転換した店舗の中には、青森県八戸市のように
+142%の売上増を達成した実例もあります。

このような店舗であれば、一定の営業実績がある“商品”として、個人オーナーへ譲渡することが可能です。
近年では、退職金の使い道として飲食オーナー業に踏み出す方も増えています。
そうした方々に対して、「実績のあるモデル店舗」をパッケージで譲ることができれば、

  • 店舗は維持される
  • 売上は残る
  • 撤退コストはかからない

という、本部にとって非常に都合のよい構図が成立します。

ここでポイントとなるのが、“しゃぶ葉化した上で売却する”という順番です。
ガストのまま売るというのは、言うなれば古くなった中古住宅を現状渡しで手放すようなものです。
汚れが目立ち、住み心地の悪い物件は買い叩かれるか、そもそも買い手がつきません。

しかし、ハウスクリーニングや軽いリフォームを施した物件であれば、
“気持ちよく買ってもらえるだけでなく、場合によってはリフォーム代以上の価格で売れる”こともあります。
私は、ガストをしゃぶ葉に業態転換してからフランチャイズオーナーに譲るというのは、
この「手入れをしてから売る」という中古物件のリセール戦略と極めて似た構造だと考えます。

もちろん、これはあくまで私個人の経営者的な視点に基づく私案にすぎません。
しかし、ガストというブランドの役割が終わりつつある今、
このように“再生と譲渡”をセットにした戦略は、すかいらーくにとって極めて現実的な選択肢のひとつではないでしょうか。

なぜバーミヤンや資さんうどんは“切り売り”できないか(私案)

ガストは、しゃぶ葉という“売れる業態”への変身が可能でした。
では、同じようにすかいらーくグループ内で、バーミヤンや資さんうどんをフランチャイズで展開するという出口戦略は考えられないのでしょうか?

結論から言えば、この2つのブランドは“極めて売りにくい”構造を抱えていると私は考えます。

◆ バーミヤン:記憶に残るメニューがない

バーミヤンには「これを食べに行こう」という明確な看板メニューがありません。
YouTubeなどでもしばしば指摘されているように、「人気メニューが浮かばない」という声は少なくありません。

一方で、ラーメンや中華麺を中心にした麺類のラインナップは非常に豊富で、
一部には高級食材を使った変わり種も見られますが、全体としての原価率は、
一般的なラーメン業態と同程度、またはやや低めで収まっている可能性が高いと考えられます。

バーミヤンはセントラルキッチン方式でオペレーションを統一し、
現場の作業を簡素化することでコストを抑えていると見られます。
しかしその一方で、メニューの種類が多すぎるために「これを食べに行く」という目的性が薄くなっている点は否めません。

結果として、オペレーションの煩雑さの割にブランド力が強いわけでもなく、
フランチャイズオーナーから見れば「わざわざ選ぶ動機が見つかりにくい業態」になってしまっているのです。

◆ 資さんうどん:ソウルフードの再現は難しく、品質統一も難しい

資さんうどんは福岡県北九州市発祥の、柔らかいうどん文化に根ざしたローカルチェーンです。
看板メニューである「牛ごぼううどん」は、甘辛い牛肉とごぼうの天ぷらを組み合わせた“福岡らしさ”のある一杯で、地元では高い支持を受けています。

しかし、この地域性の強さこそが、他地域展開やフランチャイズ化の際のハードルとなります。
福岡で愛される味が、関東や関西の客層にそのまま受け入れられるとは限りません。

さらに資さんうどんの最大の特徴は、出汁を各店舗で一日に何度も取る方式にあります。
これは味に“手作り感”や“温かみ”を持たせる効果がある一方で、
味の統一性を保つには相当のスキルと経験が必要となります。

実際、同じ福岡のうどんチェーン「牧のうどん」では、スープを本店で一括製造し、各店舗の店長が毎朝取りに行くことで味のばらつきを抑える工夫がされています。
それと比べると、資さんうどんの出汁運用は現場依存度が高く、品質コントロールの難易度も跳ね上がります。

バーミヤンのラーメン同様、現場のアルバイトスタッフの経験値や習熟度によって品質に差が出やすいという構造的な問題が、フランチャイズ展開においては極めて大きなリスクとなります。

また、資さんうどんには「麺の茹で加減を“固麺・やわ麺”で注文時に調整できる」というサービスがあります。
一見すると顧客満足度が高そうに思える仕組みですが、
裏を返せば、調理側に高度な対応力が求められるということです。

こうした手間や味のばらつきが「地元で受け入れられる理由」になっていたとしても、
チェーン展開、とくにフランチャイズ展開の場面では大きな障害になりかねません。

つまり資さんうどんは、その魅力と弱点が表裏一体のブランドであり、「誰が作っても同じ味になる」ような再現性が前提となるフランチャイズモデルには、根本的に向いていないのではないかと私は考えます。

まとめ:すかいらーくにとって今、実行可能な“最後の切り札”とは?

ここまで見てきた通り、すかいらーくグループの中でフランチャイズ展開が現実的に見込めるブランドは、
現時点ではしゃぶ葉にほぼ限られています。

ガストは業態として賞味期限を迎えつつあり、
バーミヤンや資さんうどんは、オペレーションの煩雑さや再現性の問題から、
フランチャイズオーナーへの“切り売り”には向かない構造的なハードルを抱えています。

では、なぜしゃぶ葉だけが唯一、生き残りかつ拡張可能なカードと見なされているのでしょうか?
その理由は、「業態構造そのものの強さ」にあります。


◆ 調理はお客さん、サイドメニューはビュッフェスタイル、だから人件費は格安!

メイン料理のしゃぶしゃぶは、出汁や材料の配膳さえ済めば調理はお客さんが自らやってくれます。

また、しゃぶ葉では、サラダやごはん、デザート類などがセルフサービス形式です。
店側の手間は少なく、人件費を抑えながらも、1人あたり2,000円前後の客単価を確保できます。

しかも、お客さんが「自分で選ぶ・作る」という能動的な楽しさが、ただの“食事”ではなくレジャーとしての外食体験につながっているのです。


◆ 夏場にも足を運びたくなる”限定フェア“を毎年開催

しゃぶ葉では「夏限定・レモンハーブだし」「韓国フェア」など、季節ごとの仕掛けも巧みに用意されています。
「また行ってみよう」と思わせる周期的なイベントが、リピーターの獲得と飽き防止に直結しています。


◆ デザートも充実。人気No.1の焼きたてワッフルにソフトクリームを添えて!

ワッフルメーカーの前には、子どもが列を作ります。
デザート、ソフトクリームなどのコンテンツは、ファミリー層にとって「どこへ行く?」と聞かれたときの“理由づけ”になる要素でもあります。

健康的で、安くて、楽しい──しゃぶ葉は、今の家計感覚にも、子育てにも、程よくフィットした存在です。


◆ テレビCM不要。広告費が掛からない理想のビジネスモデル

注目すべきは、しゃぶ葉がテレビCMを積極的に展開していないという点です。
ガストやバーミヤンが大々的なテレビ広告を打っているのとは対照的に、しゃぶ葉はSNSやYouTubeなどのデジタルメディア、屋外広告を中心とした発信だけで、十分に人を集めています。

これはつまり、テレビ広告に頼らなくても自然に人が集まる業態であるということ。
フランチャイズオーナーにとっても、広告費に依存せず売上が見込めるモデルは極めて魅力的です。


◆ 「ガストをしゃぶ葉に業態転換後、売却」──最も現実的な出口戦略(私案)

もし私が「すかいらーく」の経営者であれば、こう考えます。

「一度、ガストをしゃぶ葉にして業績を回復させてから、退職金を持った個人オーナーにフランチャイズで譲渡する。
それが、撤退コストをかけず、ブランドを傷つけずに整理する唯一の方法ではないか」と。

しゃぶ葉が“評価されている今のうちに、このカードを切る”──それこそが、「すかいらーく」にとって今、実行可能な“最後の切り札”ではないかと私は考えます。

そしてこの手段は、単なる店舗整理の枠にとどまらず、すかいらーくグループが抱える構造的な経営課題を一気に解決できる可能性を秘めています。

  • ✅ 財務体質の引き締め(撤退コストの回避と資金繰りの正常化)
  • ✅ 経営構造の軽量化(直営からロイヤリティ型への転換)
  • ✅ 数字の見栄え改善(再上場の選択肢確保)
  • ✅ 雇用の維持とESG対策(“人に優しい合理化”の演出)

つまり私は、「ガストをしゃぶ葉にしてからフランチャイズオーナーへ譲る」というこの一手こそが、手段としてだけでなく、“彼らの目的をも満たす実効性の高い選択肢”だと見ています。

すかいらーくは、中高年世代にとって知名度が高いだけではなく、若い頃の思い出が詰まったファミリーレストランです。懐かしい思い出をお持ちの方も多いでしょう。自分がそのグループのオーナーになるという夢をお持ちの方がいれば、Win-Winの取引が成立です。

すかいらーくが次世代に残るための選択をするのであれば、“ドミナント戦略で既に賞味期限が切れたガスト”に、この手を打てるかどうか──そこに企業としての胆力が問われているのではないでしょうか。

よかったらシェアしてください
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


このサイトは reCAPTCHA によって保護されており、Google のプライバシーポリシー および 利用規約 に適用されます。

reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。

目次